本と音とそれから語学、私ブログ。

自分の思いを一つ一つ紡いでいく。

Revolution 2

大丈夫大丈夫、

俺、奈々ならできると思うで。

 

こんなことを簡単に言ってのけてしまう。

職員室に入る扉の前で

私は彼の横顔から見えた

ニヤリとした顔、

でもどこか優しさが溢れ出すような

あの表情を今でも忘れない。

 

小説の書き出しかよっ!と

突っ込まれそうだが、

私の革命者第二号は他でもない、

この物語の主人公となる

高校時代の数学の先生だ。

三年間、学年部の先生でもあった。

 

冒頭のセリフを何事もないように

吐き出してしまう。

そんなこんなで

彼のファンクラブがあったことは

ここだけの秘密である。

ただ、熱狂的なファンがいたため

学年主任の先生を始めとして

うちの学年では有名だったのだが…。

 

どうして私が彼を革命者と呼ぶのか。

それはただ単に、

優しさに惚れてしまっただけではない。

 

一生忘れることはない。

彼の授業を、

彼が素振りに使っていた黒板用コンパスを。

 

彼の授業は今でいうところの

アクティブラーニング

というやつだった。

ここ最近になって

この言葉を道端でも聞くようになったが、

この頃はほとんど浸透していなかった。

今考えたら、

とんでもないことをやっていたようだ。

 

私は五本の指に入るくらい

数学が嫌いで苦手だった。

しかし、高校一年生の時に

彼の授業を受けて、世界が変わった。

 

基本的に授業内に全てを理解できたことは

皆無に近かった。

復習して、質問して、やっとわかる。

 

でも、彼の授業はグループでやる。

だから、わからなくなったら

グループ内の子に聞けば

一瞬で解決する。

つまづいた段階ですぐに質問できる

しかも、同級生に質問するため

先生よりも質問がしやすい。

 

得意な子はみんなから注目されて

賞賛される。

そして、わからない子に教えることで

自分自身の中でしっかり整理ができる。

苦手な子はわからなくっても

すぐに質問できるため、

つまらなくならない。

要するに win win の授業なのだ。

 

この授業での先生の役割は

ニヤニヤしながら

できまっかぁ〜〜?

と言いながら素振りをすること。

 

できた時にはとんでもなく褒めてくれる。

やばい、天才がおるで!と。

 

また、彼はよく私たちに

さまざまな生き方を教えてくれた。

 

応援される人になれ。

 

彼からの一番記憶に残っている言葉。

 

人から応援してもらうために

必要なこと。

それは、

当たり前のことが当たり前にできること

 

挨拶ができる。

靴を揃えられる。

ルールを守ることができる。

 

これらが当たり前にできると

信用を手に入れることができる。

 

その信用があれば

自分がつらいと思った時に

自然と人が助けてくれる

だから、応援される人になれ。

 

この夏、大学生になった私は

彼のいる生徒指導室の扉を開いた。

しかし、彼の姿はそこにはない。

どうしても諦めきれず、

廊下を歩いていると、

見覚えのある後ろ姿が見えた。

「先生!」

私がそう叫ぶと、こちらを向いた。

「また、生徒指導室に遊びに行きます!」

そう私がいうと、

彼はいつもの顔でこう言った

「おう、いつでも来い!」と。

 

いつも何気なく通っていた

学校からの帰り道を久しぶりに通る。

その道が私の記憶を鮮明にさせてゆく。

やっぱり彼は私にとっての革命者だ。

いつかあなたと、ウイスキーを飲みながら

思い出話で笑えますように。

Fin.