本と音とそれから語学、私ブログ。

自分の思いを一つ一つ紡いでいく。

大人への階段

投稿二回目。

今回の文章は、

私のパソコンでずっとデビューを心待ちにしていた

エッセイ兼本紹介である。

ちょっと長いため、

ゆっくりと読んでいただきたい。

 

大人っぽくなりたい。

誰しも必ず一度は思うだろう。

髪を染めたり、ピアスやイヤリングをあしらってみたり。

大学生の私にとって、

大人になったと一番感じる瞬間はきっと、

お酒をたしなむことができるようになったときとだと思っている。


高校二年生のころから、

大好きなバンドのピアニストの影響でお酒には興味があったが、

大学生になって、私は一人の作家の作品を読み、

ますますお酒の持つ世界観にめり込んでいくことになる。

それが、上記のピアニストも好む村上春樹だった。

 

何度も図書館の本棚で見ていた作家さん。

しかし、もともと本を読むことが大の苦手だった私には、

村上春樹という長編であり、

独自のワールドを展開する作家さんの作品にはなかなか手が伸ばせなかった。

しかし、大学生の長い夏休みに読んでみようかと思い、

大学の図書館にある

世界の終りとハートボイルド、ワンダーランドに手を伸ばした。

 

読んでみると、様々な革命を私の中に起こした。

非現実的な世界だとわかっているにも関わらず、

それがあたかも現実にあるかのような感覚にさせる不思議さ、

ここまで情景描写を事細かに描いた作品を読んだことがなかった。

ベッドに寝そべり、レコードをかけながら、

本とともに晩酌を楽しむ主人公には、

時間などという概念はあたかも存在していないかのようだ。

そして、その作品に出てくるウイスキーの名前を、私は思わずメモをしてしまう。


ウイスキーを飲みたい」というと、

大概の大人は苦笑いをする。

そして、洋酒だから、日本人の口にはあまり合わないと言うのだ。

しかし、そんなことは私にはどうでもよい。

ウイスキーを飲む目的は味わうことではない。

ただ、おしゃれなBARでクラシックを聴きながら、

村上春樹ワールドにウイスキーとともに浸ることができればそれで満足なのだ。


最初は不思議な味だと思っても、

飲んでいるうちに不思議と好きになっているかもしれない。

それは、最初はまずいと思っていたビールが、

歳をとるにつれておいしくなっていくような感覚なのだと思う。

 

 

マスターの手元には、様々な役者が今か今かと出番を待ち構えている。

未成年の私が監督だったら、

暗闇の中できらびやかに輝くことのできるカクテルという役者、

そして私が恋をしたウイスキーという役者に出演のオファーを申し出るだろう。

黄金に輝くウイスキーを、形がまばらな氷の中に注ぎ、客の前に出す。

それを客はそっと手に取り、カランと音を鳴らしてみる。

氷の間から見えるその黄金は、

光の加減によって満月の光のような明暗をも醸し出す。

その儀式が終わると、その光は美しい形をし、

赤く染め上げられた唇に混ざりこんでいく。

そして、マスターに一言、

空気のように語り掛けるのだ。

「どこのウイスキーかしら」と。

 

これが私の理想だったのだが、

村上春樹さんからしたら、ウイスキーは眺めるものらしい。

そうして眺めるのに飽きたら飲むのだという。

女性と同じように。(かっこよすぎる・・・)

まだまだ私には経験と修業が足りないと思った瞬間だった。


大人になること。

来年には、19年前には考えられなかった、

成人という年齢になる。

誕生日に免許証を持って、BARに行く。

そのあと、私よりも数日先に誕生日を迎える友人と焼酎を飲むのだ。


村上春樹の世界観が私を異世界へと連れて行ってくれた。

大人という世界へ。

そして、お酒という世界へも。

これから出会う様々な人と、いろいろなお酒を楽しみたい。

意識という空間の枠外に飛び込まないように

くれぐれも気を付けながら

のんびりと大人のレディへの階段を上っていこう。

Fin.